3冠の偉業には惜しくも届かなかった。
Bリーグ東地区3位の千葉ジェッツ(ワイルドカード下位)は18〜21日、沖縄アリーナで西地区2位の琉球ゴールデンキングスとチャンピオンシップ(CS)セミファイナルを行い、1勝2敗で敗退。昨シーズンのファイナルでも苦渋を舐めさせられた琉球に、またも大一番で跳ね返された。
ただ、今シーズンの千葉ジェッツは紆余曲折がありながらも時間の経過と共に本来の強さを取り戻し、東アジアスーパーリーグ(EASL)と天皇杯の2冠を達成。苦しんだBリーグでも見事なロードマネジメントでCSに滑り込み、クォーターファイナルではレギュラーシーズン(RS)全体1位の宇都宮を相手にアウェーでアップセットを起こした。
大きな功績と悔しい終幕が混在した今シーズン。セミファイナルの最終第3戦後、会見に姿を見せたキャプテン富樫勇樹のコメントには、誇らしさと無念さがにじんだ。
自身の得点モードは「良くない千葉ジェッツ」
95ー62で先勝したセミファイナルの第1戦は、48点もの大差で勝利した3月の天皇杯決勝とほぼ同じような展開だった。効果的にスピードのミスマッチを突き、外からも富樫やアイラ・ブラウンらが高確率で3Pを沈め、度々ファストブレイクも出てオフェンスの火力で琉球を凌駕した。
しかし、第2戦以降は琉球の強度の高いディフェンスや、ジャック・クーリーやアレン・ダーラムらによるインサイド攻撃に手を焼き、リバウンドでも圧倒された。スピードや3Pを軸に展開する自分たちのオフェンスを封じられ、終始流れを掴めずに連敗した。
富樫は最後の2試合をこう振り返る。
「1試合目はすごくシュートが入ったゲームだったのですが、あとの2試合はそのイメージ通りにプレーができませんでした。琉球のディフェンス強度も1試合目と比べたらかなり上がった印象がありますし、リバウンドもやられました。試合中、常にこの差以上のものを感じながらプレーしていました。こっちが波に乗って追い付けそうな時にも、セカンドチャンスでやられました。特にクーリー選手を中心にやられてしまった印象ですね」
負ければシーズンが終わる第3戦では、富樫が前半から悪い流れを押し返そうとする場面も見られた。琉球から攻守で徹底的に狙われていたが、この試合は前半だけで15得点。得点モードに入っていた時の心境を聞くと、初めに「うーん」と少し唸ってから、「正直、あれがチームにとっていいかと言ったら、そうでもない」と反省の言葉を口にした。
脳裏にあったのは、シーズン序盤のチーム状況だ。主力の負傷や昨シーズンから入れ替わった外国籍選手とのフィットに苦しみ、スタートダッシュに失敗。その時も富樫が自ら得点を取りに行く場面が目立ち、自身のスタッツが伸びるのに反して、チームの勝ち星は思うように増えなかった。
「シーズン当初も含め、そういう時間帯はチームとして機能してなかった。特に今日の前半はそれに近いような状態になってしまいました。それはポイントガードである自分の責任だと思います。自分が点数を取るのも大事ですけど、他の選手を勢い付けることができなかった。良くない千葉ジェッツが出た時間帯だったと思います」
戦いながら成長したシーズン「胸を張って帰りたい」
最後はチームにとって「悔しい結果」(富樫)となったが、千葉ジェッツにとって今季は実り多きシーズンとなったことは間違いない。
序盤戦こそ苦しんだが、シーズン途中にゼイビア・クックスが加入し、年が明けると原修太ら主力が復帰。さらに小川麻斗や金近廉ら若手も成長を遂げると、連勝街道をひた走った。極め付きは昨季ベスト5とシックスマン賞に輝いたクリストファー・スミスが3月に復帰を果たし、同月に行われたEASLのファイナル4と天皇杯決勝を圧巻の強さで優勝して2冠を獲得した。
ホーム&アウェーで海外移動もあるEASLを含め、タフな日程をこなしながらこれだけの成績を残したことは賞賛に値する。だからこそ、富樫も柔らかい笑みを浮かべ、胸を張る。
「Bリーグが始まってからの8シーズンを考えても、本当にタフなシーズンだったと思います。ただ若手も含め、シーズン当初からしたらかなりの成長を遂げ、やりきったなと思います。天皇杯、EASLと二つのチャンピオンシップを取れたことは、シーズンを通してしっかりと仕事をした結果。胸を張って帰りたいです」
コートに立つことに対する強い「プライド」
富樫個人を取って見ても、平均スタッツのランキングで得点が6位、アシスト数は5位。プレータイムでは、相変わらずの“鉄人”ぶりが伺えるシーズンとなった。
セミファイナル第3戦は、富樫にとって今シーズンの“75試合目”。レギュラーシーズン(RS)とCSを合わせた66試合で全てコートに立ったBリーグに加え、並行して開催されたEASLは7試合、準決勝から千葉Jが姿を見せた天皇杯は2試合に出場した。欠場したのはEASL予選リーグの1試合のみ。昨年10月にBリーグが開幕して以降の話であり、8カ月弱の間の試合数であるため、ほぼ3日に1日は試合をしている計算だ。
プレータイムを見ると、さらに凄い。
BリーグRSの総出場時間の合計は1923分39秒で4位(1位はニック・ケイの2004分54秒)だが、CSの200分52秒を合わせた2124分31秒はリーグトップ。ファイナルに進出した琉球と広島ドラゴンフライズはまだ試合が残っているが、仮に3戦までもつれ込んで誰かが120分間をフル出場したとしても、どの選手も富樫の総出場時間には届かない。つまり、Bリーグだけを見ても今季最も長くプレーした選手なのである。
ジョン・パトリックHCも富樫の活躍に賞賛を送り、そのプレーぶりに舌を巻く。
「勇樹がいつも責任を持って、いつも活躍する。いつも相手のディフェンスが勇樹を止めようする作戦をとるけど、ビッグショットをたくさん入れる。勇樹がどこか痛くても全試合出てたのは、素晴らしいリーダーシップだと思う」
167cmの小さな体のどこに、ここまでの強大なエナジーが潜んでいるのかは分からないが、精神面からくる部分も大きいようだ。以下は、試合に出ることに対するこだわりを聞かれた際の答えである。
「そこに対しては、自分の中ではかなりプライドを持ってやってるところがあるかなと。もしかしたら悪化するかもしれない怪我がある時もありましたが、可能性として少しでも出られるなら、常にコートに立つようにしてきました。それがチームにとって良かった時と、もしかしたら良くなかった時とはあるかもしれないですけど、一人の選手としてコートに立ち続けることは目標ではあるので、これからも続けていきたいなと思います」
30歳を迎え、ベテランの域に入っている富樫。しかし、プレーのパフォーマンスやメンタル面の強さは、まだまだ衰えを知らない。リーグの顔役の一人として、来シーズン以降もまばゆい輝きを放ってくれそうだ。
(長嶺 真輝)