Bリーグ西地区首位の琉球ゴールデンキングスは20日、沖縄アリーナで同地区7位の大阪エヴェッサと対戦し、88ー79で勝利した。連勝を「8」に伸ばし、通算成績は31勝12敗。この日は同地区2位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズが敗れたため、ゲーム差が「3」に開いた。
琉球にとってはポジティブな要素が多かった一戦だが、試合後にコート中央に横一列で並んだ選手、スタッフの表情にはほとんど笑顔が見られなかった。水曜ゲームにも関わらず、詰め掛けた7,705人もの観客を前にマイクを握った桶谷大HCは、覚悟の滲んだ表情で言った。
「天皇杯の惨敗で、僕たちは皆さんからの期待、信頼をあの1試合でなくしたと思っています。ただ僕たちはこの負けから大きな代償を払って、これからCS(チャンピオンシップ)に向かって西地区1位になり、このホームコートでCSを戦いたい。これから1試合1試合、僕たちは皆さんの信頼を回復できるように頑張りたいと思います」
4日前の天皇杯決勝で千葉ジェッツに69ー117という大敗を喫した琉球。公式戦の過去最多失点で敗れた屈辱の一戦を糧に成長を遂げ、昨シーズンと同様に天皇杯決勝での敗戦からBリーグ王者まで駆け上がれるか。覚悟の再スタートとなった。
岸本「幸せを感じながらプレーしました」
大阪戦は、小野寺祥太を先頭に高い強度のディフェンスで試合に入った。オフェンスでは「改めてみんなに応援、期待をしてもらっているということを幸せに感じながら、特に第1Qはプレーしていました」という岸本隆一が3P2本を含む10得点。26ー16で第1Qを終えた。
ただ相手のゾーンディフェンスに手を焼き、前半だけで9ターンオーバーを記録。第2Qで最大15点まで広げたリードは徐々に溶け、第3Q序盤で追い付かれた。
その後もビッグマンがファウルトラブルに陥るなど苦しい状況ではあったが、渡邉飛勇が短い出場時間で攻守に活躍したほか、チーム2番目の19得点を挙げた今村佳太が勝負所で得点を重ね、競り勝った。
天皇杯決勝での大敗直後のホーム戦だったため、「must win(勝たなければいけない)」という強い気持ちで試合に臨んだという今村はこう振り返った。
「絶対に勝たなきゃいけない試合だったので、少しほっとしました。チームの雰囲気は悪くなく、バウンスバックするんだという良いメンタリティでプレーできていると思います。怪我人が帰ってきたり、3BIGができるようになったりして、まだいろんなことを試している状況です。これからまた課題は出てくると思いますが、それで『head down(下を向く)』するような選手はいないと思っているので、コミュニケーションを取りながら戦う姿勢を持ち続けていきたいです」
個人スタッツでは岸本がチームトップの21得点。アレン・ダーラムが12得点、4リバウンド、5アシストと活躍したほか、7得点を挙げた荒川颯が2スティールと要所で存在感を発揮した。
「傲慢さ」を捨て、再び“挑戦者“に
試合後の記者会見では、天皇杯絡みの話が大半を占めた。
特に桶谷HCの話は、大敗した要因や、琉球ゴールデンキングスというチームの在り方など話が多岐に及んだため、紹介したい。以下は、試合後のマイクで「信頼を失った」と話したことに関連し、「なぜそう感じたのか?」との問いに対する答えだ。少し長いが、プロスポーツチームに関わる人間としての覚悟が滲む内容である。
「ゲームを通して見せ場を全く作れなかった。自分たちはディフェンスのチームなのに、117点失点。自分たちに『今のままで勝てるんじゃないか』という傲慢さが少なからずあり、あの舞台で出てしまいました。エラーをカットしようと思って一つを止めても、エラーが雪崩のように出てきてしまった。(一番の問題は)それで諦めてしまっているようなバスケットを最後にしてしまったこと。ディフェンスに関しては特に。試合が終わった後は恥ずかしかったです」
沖縄から飛行機に乗ってさいたまスーパーアリーナに駆け付けた人など、多くのファンの事を想いながら続けた。
「遠い沖縄からわざわざ飛行機に乗って、宿泊代を払って見に来たお客さんがこんな試合を見たいわけがない。このゲームを見るために『いくら(お金が)かかっているんだろう』ということを思ったら、本当に反省とかそういうレベルじゃない。人として、もう1回自分たちがこの職業につかせてもらっているということを見つめ直さないといけない。だから、信頼を失ってしまったと思っています。信頼は本当に1回の試合、1回のミスで簡単に崩れると思うし、でも積み上げるのはそんなに簡単じゃない。でもレギュラーシーズンは残り17試合あって、僕たちは(回復する)チャンスが残っている。1試合1試合、今日ぐらいの強い気持ちで戦い続けたいです」
コメントの前半に出てきた「傲慢さ」という言葉。琉球は1月にアレックス・カークが帰化し、ヴィック・ローがより自身に適したスモールフォワードのポジションに入れるようになったことなどから連係が改善し、天皇杯決勝前まではBリーグで7連勝と好調を続けていた。その状態が傲慢さを生む要因だったのか。追加で聞いてみた。
「実際チームは天皇杯までいい状態できていたし、準備も手を抜いてやっていたというわけでもない。だからこそ、余計に自分たちが『勝てる』と思ってしまったところに一番の落とし穴があった。もっとチャレンジャーな気持ちで、もっと貪欲に、相手を叩きに行くくらいの気持ちがなかった。自分たちが“チャンピオンチーム”として取り組んでしまっていた感がありました」
「団結の力」を掲げ、「キングスは王者ではなく、常に挑戦者として戦います」と謳っている琉球。大一番での惨敗は、チームの原点を見つめ直す機会になったようだ。
“足”の鈍さ対策、試合中の修正力が課題
48点差で敗れた天皇杯決勝は、球団の在り方以外にも様々な課題をチームに突きつけた。
一つ目は、カークとジャック・クーリーという重量級のセンターが外に引きずり出され、フットワークの鈍さを狙われた時の対策である。大阪戦でも、この日両軍最多の28得点を挙げたショーン・ロングがトップやエルボーの位置でボールを持ち、チームとして意図的に空けたインサイドのスペースを使ってカークやクーリーに1対1を仕掛ける場面が目立った。
マティアス・フィッシャーHCも「琉球のビッグラインナップはすごい脅威」とした一方で、「フィジカルは強いけどクイックネスが足りない部分もあるので、ショーンがうまくアジャストして攻めていました」と振り返った。
それに対し、桶谷HCは「3BIGがいい時はもちろんありますが、アレックスのハイポジションのところはマンツーだけでは難しいということを今日の試合が終わってからも、正直感じています。ゾーンにしないといけないかな、とか。この何試合かで、ちゃんと解決できるようにしたいなと思っています」と語り、対策の必要性を感じていた。
もう一つの課題は修正力だ。大阪に対して連続得点を許す時間帯が多く、岸本は「連続得点の種類もいろいろあると思っていて、ゴール下を2回連続でやられるとか、同じ形の3Pのやられ方を2ポゼッション連続でしてしまうのは、優勝を狙っていく上では改善しなきゃいけない部分だと感じます。もっともっとアンテナを張ってやっていかないといけない」と反省した。
岸本は天皇杯決勝の後、「コーチのゲームプランを遂行する部分と、自分たちがアジャストする部分をもう1度、意識高くやるしかない」と語っていたが、後者の部分により課題を感じているようだ。
「スタッフ任せ、スカウティング任せにするのではなくて、もっと自分たちでやりようを探って、それを実行していく。それをもっと早い段階で。試合が終わって、ああだこうだは言えるんですけど、試合中のその時に修正できるか、アジャストできるかが一番の肝です。残りのゲームで、アジャストする瞬発力を培っていければいいかなと思います」
レギュラーシーズンの最終盤で、よもやの大敗から自分たちの課題が浮き彫りとなり、もがいている琉球。言い換えれば、チームにとってはまだそれだけの伸び代があるということだ。CSを前に、残り17試合のレギュラーシーズンでどのような変化を遂げていくのか。注目だ。
(長嶺 真輝)