Bリーグ中地区の三遠ネオフェニックスは5日、沖縄アリーナで西地区の琉球ゴールデンキングスと2024-25シーズンの開幕戦を行い、延長戦にもつれ込む激闘の末、96ー92で競り勝った。各地区を代表する強豪同士の対戦らしく、最後まで目の離せない展開となり、詰め掛けた8,509人の観客を大いに沸かせた。
第3Qに最大15点のビハインドを背負いながら、劇的な逆転勝利を飾った三遠。爆発力のあるオフェンスで7割を超える勝率を記録し、圧倒的強さで中地区を制した昨シーズンと同様に、今季も優勝候補の一角に入る力があることを印象付けた。
チームは今オフ、サーディ・ラベナやコティ・クラーク、細川一輝ら多くの主力が退団した一方、NBA経験が豊富なデイビッド・ヌワバ、日本代表で力を付けた吉井裕鷹、帰化選手のウィリアムス・ニカのほか、湧川颯斗や津屋一球など力のある選手を獲得。顔ぶれが大きく変わった中で、開幕戦の内容からは「進化の予兆」も見られた。
ダジンスキー、佐々木… 勝負所で“ビッグショット”連発
試合は佐々木隆成、デイビッド・ダジンスキーに加え、ヌワバ、吉井、ニカという新顔を合わせた5人でスタート。佐々木やベンチから出た大浦颯太らが高確率で3Pを決めるなどして、一進一退の攻防が続いた。
試合が動いたのは第2Qの最終盤。昨シーズンに比べてスピード感の増した琉球に速攻から3Pを沈められたり、ジャック・クーリーにゴール下を決められたりして抜け出され、38ー46で前半を折り返した。
後半も流れが変わらず、第3Q開始から約3分でこの試合最大となる15点ビハインドを背負う。しかし、ここからゾーンも織り交ぜながらディフェンスの強度を高めて我慢し、津屋やダジンスキーの3P、ヌワバの個人技などでじわじわと追い上げていく。第4Q中盤には射程圏内に入れた。
試合時間残り1分半ほどで再び5点差とされたが、そこからヤンテ・メイテンが徹底してゴール下を攻め、残り約1分で遂に追い付いた。その後、ダジンスキーと琉球の岸本隆一がそれぞれ勝負強い3Pをねじ込んで84ー84となり、延長へ。
ここでも一進一退の攻防が続いたが、8秒バイオレーションを奪うなどディフェンスの集中力を切らさず、最後は佐々木が値千金の3Pを沈めて死闘に終止符を打った。
個人スタッツはメイテンが23得点、10リバウンドのダブルダブル。ダジンスキーと大浦がそれぞれ18得点を記録し、佐々木は11得点、8アシスト。吉井の3スティールも光った。チーム全体の3P成功率は琉球の21.4%(42本中9本)に対し、44.8%(29本中13本)に達した。
ハーフタイムに指示「ディフェンスから自分たちのペースに」
主力が入れ替わった中でも、昨シーズンと同様に「どこからでも点が取れる」というようなオフェンスを展開した三遠。後半は琉球のビッグマンが三遠の3Pを抑えるために高めのポジションを取っていると判断し、メイテンが徹底してインサイドを攻めるなど、ストロングポイントを突く賢さも垣間見えた。
まだ新チームになったばかりでお互いの強みに対する理解が未成熟な部分はあれど、大野篤史HCは今後に向けて一定の手応えを感じたようだ。
「多くの時間帯は、自分たちのストロングポイントでプレーするというよりも、『自分がやらなきゃいけない』という責任感の強さからなのか、(全体として)自分が普段しないプレーを選択してしまったのかなと思っています。ただそこは、いろんな選手が入れ替わった中で、お互いの強み、弱みを60試合をかけて知り合うことができれば、もっと構築できていくと思っています」
昨シーズン、オフェンシブレーティングがリーグトップの119.1点に達した三遠。スコアラーとしての存在感が大きかったクラークやラベナの得点力を補い、強烈な矛を維持したいところだ。
後半のディフェンスも勝因と一つとなった。大野HCにハーフタイムで修正をかけたことを問うと、以下の答えが返ってきた。
「そのポジションに入った人間が、自分の責任をしっかりとやらないといけない。オープニングゲームということで、みんなが『やろう、やろう』という気持ちが前面に出ていて、ディフェンスからオフェンスに繋げるところにフォーカスがいっていませんでした。セカンドチャンスポイントで12失点、ターンオーバーから8失点、合わせた20失点をどれだけ減らせるか。そのためにディフェンスから自分たちのペースを出すことにフォーカスしてやっていこうね、という話をしました」
その結果、1対1の間合いやスイッチでのマークマンの受け渡しが改善。さらにクーリーやカークなど重量級のビッグマンを揃える琉球に対してリバウンドでも体を張れるようになり、第4Qとオーバータイムに限って言えば14本対15本(試合全体では39本対53本)とほぼ互角だった。
吉井や湧川らの加入で「サイズアップ」に成功
このディフェンスとリバウンドは、昨シーズン急成長を遂げた三遠がさらに進化するために大きなポイントになるだろう。鍵を握るのは、196cmの吉井、194cmの湧川、191cmの津屋ら新加入選手たちだ。
以下は、佐々木に昨季とのチームの違いを聞いた際のコメントである。
「やっぱりディフェンスとリバウンドのところですね。今日はリバウンドで少しやられてしまいしたが、吉井や津屋、湧川が入ってサイズが上がりました。この二つはバージョンアップした部分だと思います」
日本代表でも共闘した吉井については「めちゃくちゃ心強いです。ディフェンスで外国籍選手に当たり負けしないですし、40分間ずっとフィジカルに手を抜くことなくやってくれます。苦しい時に一番声を出してチームを鼓舞する姿は、僕も見習わないといけないと思います」と言った。昨シーズンは琉球のような高さと重さのあるチームに対して苦戦する試合もあったため、全体の「サイズアップ」は弱点を改善できる可能性を秘める。
さらに、得点面での貢献も期待されるヌワバはもともとディフェンスを最大の武器とする選手であり、この日も琉球のヴィック・ローを1対1で抑える場面もあった。ニカもインサイドのディフェンスやリバウンドで泥臭く体を張れるプレーヤーだ。
三遠の昨シーズンのディフェンシブレーティングはリーグ8位の105.3点、平均リバウンド数は5位の40.3本と、いずれも悪い数字ではない。昨シーズンはチャンピオンシップ(CS)のクオーターファイナルで2連敗を喫し、早々と姿を消してしまったが、ディフェンスとリバウンドが強化できれば、重たい展開が増えるCSでも強さを維持できるはずだ。
佐々木が今シーズンへの意気込みを語る。
「今シーズンの中地区は強豪ばかりです。レギュラーシーズンの60試合でどのチームも成長していきます。地区優勝はしたいと思っていますが、もしできなかったとしても、自分たちもしっかり成長していく。CSで優勝することが目標なので、そこに向かってチーム全員でやっていきたいと思います」
厚みの増したメンバーで、今季こそチャンピオントロフィーを掴みに行く決意だ。
(長嶺 真輝)