「有明の死闘」を制した琉球ゴールデンキングス 大きな一勝を呼び込んだ岸本隆一の超絶3Pと“奇妙な数字”
ガッツポーズをする琉球ゴールデンキングスの岸本隆一©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 20秒、19秒、18秒…。試合の残り時間を示す数字が、刻一刻と減っていく。有明コロシアムを6千人超の大歓声が包む中、ダブルオーバータイムにまでもつこれんだ死闘が最終局面を迎えた。

 スコアは78ー80で琉球ゴールデンキングスの2点ビハインド。アレン・ダーラムがペイントアタックしてアルバルク東京のディフェンスを収縮させ、左45度で待ち構えていた岸本隆一にキックアウトした。残り12秒、スリーポイントラインから優に1m以上離れた位置でボールを掴む。安藤周人が眼前で左手を上げていたが、お構いなし。迷わずにキャッチ&シュートを放った。

 「あの瞬間、決められる自信がありました」

 バックスピンがかかったボールが綺麗な弧を描く。リング奥の縁に「ごっ」と音を立ててぶつかり、ネットに吸い込まれると、琉球ベンチのメンバーが両手を突き上げながら飛び出し、アウェーの地で選手たちの背中を押し続けた応援団も感情を爆発させた。当の岸本には、不敵な笑みがこぼれた。

 最後のA東京のポゼッションを耐え抜き、81ー80でチャンピオンシップ(CS)クォーターファイナルの第1戦を制した琉球。生え抜き12シーズン目の“ミスターキングス”の活躍で先手を取り、クラブ初の2連覇に向けて最高のスタートを切った。

吹っ切れた岸本「勝因は我慢強いディフェンス」

 試合は五分五分の展開でスタートしたが、第2QでA東京が堅守とリバウンドで優位に立ち、29ー43で折り返した。後半に入ると、琉球はピックの使い方を修正して前半無得点だった岸本が覚醒。第3Qで3連続3Pをヒットさせ、猛追する。さらにもう一人の日本人エースである今村佳太が第4Qだけで3P2本を含む8得点を挙げ、土壇場で追い付いてオーバータイムに持ち込んだ。

 一回目のオーバータイムは今村が5ファウルで退場しながらも接戦に持ち込む。ただ73ー73の同点で迎えた残り6秒、松脇圭志がフリースローを2本外して勝負を決められず。それでも我慢を続け、ダブルオーバータイムの末に勝利をもぎ取った。

 勝負を決める3Pについて、岸本が振り返る。

 「第4Qの最後の方は佳太がずっと引っ張ってくれて、彼が退場したこともあって『自分がやるしかない』という思いもありました。自分たちの強みはリバウンドなので、自分が外しても必ずフォローしてくれる選手がいる。実際にやっている感覚としては、もう理屈じゃない。空いたら行くべきだと思っていましたし、ああいう状況下では迷いが一番良くない。シンプルを心掛けてやりました」

 レギュラーシーズンの最終盤では4連敗をするなど調子を落とし、最終戦の結果で名古屋ダイヤモンドドルフィンズにまくられて西地区7連覇を逃した琉球。厳しい戦いを予想する見方も多かったが、この一戦では本来の持ち味である我慢強さを全員が体現した。持ち直した要因は何だったのか。

 「メンタル的なところで言えば、吹っ切れたと思います。自分たちはレギュラーシーズンで、守ってきたものをたくさん手放してしまった。もう手放しようがないというか、個人的にはもう『当たって砕けろ』だと思っていました。それがいい方向にいったかなと感じます」

 その「吹っ切れた」という部分が顕著に現れたのが、ディフェンスの強度だ。今シーズンは前線からプレッシャーを掛ける機会が昨シーズンに比べて減った印象だったが、この試合では相手のハンドラーからターンオーバーを誘う場面が度々見られた。岸本が続ける。

 「みんな我慢しようということを言っていました。その我慢の中で、(第3Qに自分の)3Pから始まって、その後にダーラムがスティールしてファストブレイクに持っていくところとか、ああいうモメンタムが必ず試合中にあると思っていました。ディフェンスが崩れなかったことが一番の勝因。ダブルオーバータイムの点数ではなかったので、そこはお互いですが、ディフェンスで修正しながら戦えたと思います」

試合後、笑顔を見せる岸本(右)©Basketball News 2for1

ORで「−9」の琉球がセカンドチャンス得点で圧倒した理由

 激しいディフェンスの応酬や勝負どころでのオフェンスに加え、この一戦における最大の見どころとなったのは熾烈なリバウンド争いだ。ジャック・クーリーアレックス・カーク、アレン・ダーラムという重量級のインサイド陣を揃える琉球に対し、A東京もライアン・ロシターアルトゥーラス・グダイティス、レオナルド・メインデルらが積極的に飛び込み、ゴール下は50分間を通して戦場と化した。

 この攻防に関して“奇妙な数字”がある。

 オフェンスリバウンドは23本対14本でA東京が琉球を大きく上回った一方で、セカンドチャンスポイントは23対11で琉球が2倍以上の数字を残したのだ。この二つの統計は比例関係にあることが多いため、ここまで優位性が反対に出ることは珍しい。

 A東京のデイニアス・アドマイティスHC「ディフェンス面でのリバウンドが一番のキーポイントだと思います。琉球にオフェンスリバウンドを取られ、23点ものセカンドチャンスポイントを与えてしまいました。ここは最終的に響いたと思います」と語っていた通り、セカンドチャンスポイントの差が勝敗を分ける大きな鍵になったことは間違いないだろう。

 琉球の方が、リバウンドから効率的に得点を挙げられた要因は何だったのか。クーリーがオフェンスリバウンドを掴んでイージーなゴール下シュートを決めていた場面は印象的だったが、ダーラムはこの二つの数字について以下のような見方を示した。

 「自分にとってもそこをミステリーかもしれないですが、数字は嘘をつかない。自分たちがオフェンスリバウンドを取って、それを外に捌くことができて、このセカンドチャンスポイントにつなぐことができたのではないかと思っています」

 確かにリバウンドやルーズボール争いから外にキックアウトし、岸本らが3Pを決める場面は見られた。持ち味であるボールムーブメントの意識が生きたということだろう。

ジャック・クーリーが吠える©Basketball News 2for1

A東京のお株を奪った「ブロック8本」

 では、A東京がオフェンスリバウンドを掴んだ後のボールの処理が悪かったのかというと、そのようなことはない。むしろ、琉球のディフェンス面が上回ったという印象だ。それが数字に表れているのがブロック数である。

 琉球はカークの4本を筆頭にクーリーとダーラムも2本を記録して計8本だったが、A東京は1本のみにとどまった。レギュラーシーズンではA東京が平均3.3本でリーグで2番目に多かった一方で、琉球は2.5本で13位だったため、相手のお株を奪った形だ。オフェンスリバウンドを取られた後の集中力の高さで、琉球が上をいった。

 17点、8リバウンドの活躍を見せたクーリーは、改めて自身最大の強みであるリバウンドへのこだわりを口にした。

 「自分がリバウンドを取れた時は、チームに勢いが出る試合が多くなるということは分かっています。今日は自分も、チームとしてもフィジカルに強くプレーできました。そういう流れをまたリバウンドからつかめるように、そこにフォーカスしていきたいです」

 ダーラムも第2戦に向け、高い集中力を保つことを勝負のポイントに挙げる。

 「モチベーションを高く、次戦は第3戦にいかないような試合をしたい。そこに尽きると思います。自分たちは集中力を高めていますし、もっと良いバスケットボールをできると思っています。明日も全力で死闘を尽くすという気持ちです」

 リーグをけん引し続けてきた東西の“横綱対決“は、初戦の熱を帯びたまま第2戦に入ることは間違いない。ティップオフは11日午後7時5分。引き続き勝負の鍵となるディフェンスとリバウンドでどちらが主導権を握るのか。一瞬たりとも目が離せない熱戦が、再び幕を開ける。

(長嶺 真輝)

第2戦に勝利し、セミファイナル進出を目指す©Basketball News 2for1

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