Bリーグ1部(B1)は10月28日から29日にかけて各地でレギュラーシーズンの第5節が行われ、仙台89ERSはアウェイのホワイトリング(長野市)で信州ブレイブウォリアーズと対戦。28日に行われた第1戦を91-84、29日に行われた第2戦を81-65で勝利し3連勝。第5節終了時点で4勝5敗とし東地区4位に浮上した。
この勝利に大きく貢献しているのが今節でも活躍が光ったキャプテンの青木保憲と阿部諒の2人の同期の存在である。徐々に調子を上げてきた仙台。勝利の鍵となった”2人の同期”を中心に試合を振り返るー。
チーム全員で「ドッグファイト」を体現し3連勝
昨季から3人の新戦力を加えてシーズンを迎えた仙台は、激しいディフェンスからボールを奪い、2ポイントシュートや3ポイントシュートに繋げて流れを作るスタイル。平均失点は24チーム中7位の82.7と決して良いと言える数字ではないかもしれないが、着目したいのが平均スティール数で、リーグ1位タイとなる8.3本を記録している。
第2戦の後、仙台の藤田弘輝ヘッドコーチ(HC)は「今日はドッグファイトな部分がたくさんあったと思っていて、ラショーン(トーマス)がいないとビッグマンのピックアップハイだったり、エントリーディナイが物理的に難しくなってくる中で、2日間ガード人がピックアップハイして、石川(海斗)選手やロン(ジェイ・アバリエントス)選手や山本(楓己)選手に対してすごくプレッシャーをかけられたと思う」とコメント。第1戦で16個、第2戦で12個のターンオーバーを誘発するなど強度の高いディフェンスを評価した。
また青木も勝利の要因を「ディフェンスのインテンシティ(強度)という部分では40分間通して遂行できたので、そこが要因かなと思う」と分析。阿部も「僕たちのディフェンスが1クォーターからできた」と相手をわずか9得点に封じた守備が勝利に繋がったと語った。
選手別にスティール数を見てみると、阿部がリーグ1位となる2.2、次いで青木がリーグ2位タイの2.0、トーマスもリーグ4位タイの1.7とリーグでも上位の数字を記録していることが分かる。「阿部ちゃんも今日はスティールが無かったが昨日はトーンセットしてくれた」と藤田HCが語るように、いかにこの二人がディフェンスでも重要な役割を果たしているのかが伺える。
相性抜群 スタメンでチームをけん引する95年世代
「まったくコミュニケーションを取らない」(阿部)
「あまり同じ画角で撮らないでほしい」(青木)
29日の試合後。順番にインタビューを受けてくれた阿部と青木の同期コンビに、その仲について聞いてみた答えが上記だった。
二人のやりとりや、表情からも仲の良さが伝わってくる。また青木のインタビュー中も、先にインタビューを終えた阿部が画面外でちょくちょくツッコミをいれるなど、雰囲気の良さが伝わってきた。
1995年世代の両者は、ビッグクラブでロールプレーヤーとして起用されることが多かった。青木は昨季CSに進出した広島ドラゴンフライズで控えPGとして活躍するも、出場機会を求めてシーズン途中に仙台に電撃移籍。持ち前のハードなディフェンスとリーダーシップでチームの連敗を救った立役者である。
阿部も2季連続でCSに進出した島根スサノオマジックでいぶし銀の活躍を見せていたが、平均出場時間は約16分にとどまっていた。そんな中藤田HCからラブコールを受け、「僕自身も成長したい気持ちがあった中で、セオさん(藤田HC)とも何度も話して『一緒に成長していこう』という言葉をいただいたので、このチームでやっていきたいなと思って移籍してきた」とさらなる飛躍を誓って仙台への移籍を決めた。
仙台に移籍後、先発としてプレーする機会を得た両者。青木は、広島時代の平均出場時間(8分10秒)から10分以上もプレータイムを伸ばし(8分10秒→20分54秒)、平均得点も大きく向上(0.9→6.4)。今季はキャプテンを務めるなどチームから寄せられる期待や信頼は厚い。阿部も同じくプレータイムを伸ばし(16分51秒→25分49秒)、それに伴い平均得点が3.8から11.0までジャンプアップ。信州との第1戦ではキャリアハイの23得点を叩き出すなど、キャリア最高のシーズンを送っている。その活躍ぶりについても阿部は「うーん、(第2戦)前半何度もレイアップを落としてしまったので、まだまだかなと思う」と謙虚な姿勢を忘れない。
そんな二人の活躍を藤田HCは「本当に素直に嬉しい。コーチとして大切にしたいのは関わっているチームメイトの成功や幸せだと思うのでやすだったり、阿部ちゃんがビッグクラブでどちらかというとロールプレイヤーだった選手たちがこっちにきてメインであのように自分たちの才能を開花してくれるっていうのはコーチとしてうごく嬉しい」と目を細めた。
HCから親しみを込めて”阿部ちゃん”と呼ばれている阿部は「やっぱり、全国民の『阿部』は『阿部ちゃん』と呼ばれるので(笑)」と些細な疑問にも快く答えてくれた。
仙台89ERSを支える大ベテラン”ソルジャー”の重要性
若い選手の活躍が光る中で、忘れてはいけないのが”ソルジャー”の愛称で親しまれる片岡大晴の存在だ。片岡は宮城県仙台市出身で、大学卒業後、練習生として栃木ブレックス(現 宇都宮ブレックス)、プロ契約で京都ハンナリーズ、レバンガ北海道を経て2015年に仙台へ移籍したが、翌年から開幕したリーグ初年度でB2降格を経験。その後2シーズンは京都ハンナリーズへ再び移籍した後、湧き上がるB1昇格への想いから2019年に復帰した背景を持つ。(※”ソルジャー”は出身大学の白鴎大学ソルジャーズに由来。)
そんなソルジャーは、試合中に常に選手たちを鼓舞し続けている姿が印象的だった。良いプレーには賞賛を。悪い流れの時は手を叩いてエナジーを伝染させる。
「ソルジャーは本当にやばいっす。自分たちにどんなアップダウンがあろうがソルジャーは変わらず本当に素敵なチームメイトで、全員に気配りができて、落ち込んでいるスタッフに対しても声をかけてくれる。常に準備をして今回も頑張ってくれたが、特に前節の群馬戦で爆発してくれて尊敬しかない。このおじさんが自分の1個上だとはパフォーマンス的に信じられない」(藤田HC)
「偉そうな言い方ですけど、本当にベテランとしての鏡だなと思っていて、朝僕らが体育館に行く頃にはソルジャーはもう汗だくになって練習していますし、誰よりも声出してチームを盛り上げてくれる。38歳というのは考えられないが、そうやってベテランの方がチームのためにやってくれている姿勢を見て僕たちも『あの先輩がやっているんだからやらなきゃ駄目でしょ』って思わせてくれる存在だと思う。若手も多いので、しっかりそういった良いお手本があるので、そこに触発されながらチームとして良い循環ができていけたらなと思う」(青木)
コーチやスタッフ、選手から絶大な信頼を寄せられており、まさに仙台の魂であることが分かる。
若い選手が思い切り活躍できる裏には、チームを支えるベテランの存在がある。若手からベテランまで活躍が光り、群馬戦から3連勝と勝ち星を伸ばしている仙台89ERS。この後バイウィークまでに横浜ビー・コルセアーズ、秋田ノーザンハピネッツ、長崎ヴェルカとの連戦が待っている。チームの目標として掲げている30勝を目指し、若手とベテランの融合で「Grind」していく。 (芋川 史貴)