20勝6敗で東地区2位のアルバルク東京が好調だ。昨年の大晦日に西地区で首位争いを続ける琉球ゴールデンキングスのホームコート、沖縄アリーナに乗り込み、強豪相手に盤石の試合運びを見せて82-74で勝利。結果、12月は無傷の11連勝となった。
翌日の元日決戦は71-82で敗れて連勝がストップしたものの、現在69.9点という平均失点はリーグで最も少なく、ディフェンスの強度の高さが際立つ。連勝中は80点以上の失点が一度もなかった。12月上旬から主力の一人である田中大貴が不在の中でのこの成績は見事と言う他にない。
5年間チームを率いた名将ルカ・パヴィチェヴィッチ前HCに代わり、デイニアス・アドマイティスHCによる新体制の下、シーズン序盤こそ勝ったり負けたりが続いていたが、中盤戦に向けてチーム状態が上向いてきている要因は何なのか。
ファウルマネジメントが奏功 初戦を制す
まず大晦日の試合内容から振り返る。
A東京は試合開始からハードなディフェンスでターンオーバーを誘発し、いきなり8-0のランを見せる。琉球も負けじと強みであるインサイド陣を中心に反撃。お互いに高いディフェンスの強度を保ち、第1Qを14-15で終えた。
第2Qは連続でスリーを決められるなどして劣勢となり25-29で前半を折り返したが、ファウルコントロールの面で優位に立つ。A東京は控えガードの藤永佳昭を除いてファウルが2つ以上の選手は一人もいなかったが、琉球はこの時点でインサイドの要であるジャック・クーリーに加え、 主力の小野寺祥太、岸本隆一、コー・フリッピンがファウル2つ。この差が勝敗を分けることになる。
後半に入ると、A東京は司令塔のジャスティン・コブスを中心に攻撃を組み立てる。コブスは第3Qだけでアシスト6本を記録し、第4Qには一転して自らゴールへ向かい、10得点を記録。一方の琉球はクーリーが第3Q終盤にファウル3つでプレータイムが制限され、フリッピンも勝負所の第4Q中盤で退場。A東京は琉球が平均13本以上でリーグトップの数字を残すオフェンスリバウンドを9本しか取らせず、二桁に乗ることが多いセカンドチャンスポイントもわずか7点に抑え、最後まで優位を保って先勝した。
試合後、アドマイティスHCは「前半はなかなかフィジカル面で打ち勝つことができなかったのですが、後半はコンタクトで負けず、下がらずに強いプレーを見せてくれたと感じています。琉球はオフェンスリバウンドも非常に強いチームですが、セカンドチャンスポイントと合わせフィジカル面で負けないというところを意識して戦った結果、粘り強く勝利できました」と勝因を分析した。
選手の起用方法に変化
記者会見には、この日要所で3本のスリーを沈めて13得点を挙げ、4アシストも記録して勝利に貢献した安藤周人も出席した。チームの好調が続く要因を聞くと、以下の答えが返ってきた。
「今季はコーチが変わってディフェンスのルールががらっと変わり、ポイントガードも変わりました。5年間ルカHCがやってきたバスケが一新されて、最初はコーチが求めてることを全員が理解するのに時間がかかったこともあり、ほころびが出たのかなと思います。その中で『このままじゃ駄目だ』とチームでミーティングを重ね、コミュニケーションをたくさん取ることで一つ一つミスがなくなってきました。それが連勝に繋がってると思います」
確かに試合中、積極的にハドルを組み、帰化選手のライアン・ロシターを中心に日本人選手、外国籍選手を問わず密にコミュニケーションを取る場面が目立つ。さらに昨年は層が薄く課題だったポイントガードのポジションに、ハンドリング能力が高く、経験豊富で状況判断に優れたコブスが加入したことで、攻守ともに個に頼らない質の高いチームプレーが遂行できている印象だ。
さらに安藤が指摘したもう一つの変化は、選手の起用方法だ。
「アドマイティスHCが(これまでの経歴で)2連戦のあるリーグは初めての経験ということで、最初は選手の起用方法を模索していました。開幕して最初の頃はジャスティンを2日続けて30分弱使うこともあり、疲労を考える上で『(起用方法が)分からなかった』と言っていました。 しかし、今は試合によってはローテーションを早くして『疲れたらすぐに交代するからいつでも言って』と言ってくれていますし、そのあたりも少しずつ解消されてきたと思います。本当に選手をよく見ているコーチです」
これまで出場した24試合は全てスターターを務めるコブスのプレータイムを見ても、安藤が言うように開幕2連戦はいずれも30分を超えたが、その後に30分以上プレーした試合は2試合しかない。目に見えて出場時間のマネジメントが向上しており、それが琉球のようなフィジカルの強い相手に負けないプレーの強度を生み、リーグで最も少ない平均失点の要因の一つになっていると言えそうだ。
田中大貴ら不在をステップアップの機会に
一方で、今後の課題はやはりケガ人が続出していることだろう。11月にバックアップガードとして存在感を発揮し始めていた笹倉怜寿が離脱。さらに12月27日には平均7.6点、2.9アシストを記録していた主力の田中大貴が腰椎椎間板ヘルニアでインジュアリーリストに登録された。
敗れた琉球との第2戦は、初戦で15得点、5リバウンドに抑えたクーリーに30得点、9リバウンドを許したほか、今村佳太や岸本に高確率でスリーを沈められた。アドマイティスHCは「選手が少し怪我でいないので、ローテーションのところが問題点だと感じています。今日はエネルギーレベルが昨日よりも少し落ちてしまいました。疲労やコンディションの問題があると思いますので、今後はローテーションをいかにベストな状況にして戦えるかが我々にとっての課題の一つだと思います」と今後を展望した。
田中が離脱して以降、ほとんどの試合でスターターを務める安藤にも田中不在の影響を聞くと、「最初はチーム全員がびっくりしたし、彼がいないとチームが成り立たない部分もありました」と悲報の受け止めを率直に語った。その上で、こう続けた。
「ただ、自分たちは(田中の離脱を)与えられた課題として受け取らないといけない。やっぱりチームの状況は気にかけると思うので、勝ち続けることが、彼が不安なくけがを治すことに専念できる唯一の方法だと感じます。彼がいないことはすごいショックですし、早く帰ってほしいとは思いますけど、(シーズンの)最後に帰ってきてくれればいい。自分たちはいい調子できているので、今やるべきことを遂行するべきかなと思います」
個々の能力は極めて高く、現状で既に優勝候補に一角に入ることは間違いないが、主力の不在を糧にチーム全体の起用方法のさらなる改善や個々のステップアップも見据える。アドマイティスHCが目指す「相手に応じてバスケスタイルを変えられるスタイル」に向けてさらに伸びしろを埋め、怪我人が復帰した時に現在のメンバーとどう融合していくのか。4季ぶりの王座奪還、リーグ 最多3つ目のチャンピオンリング獲得を目指すA東京のさらなる進化に注目だ。
(長嶺 真輝)