昨シーズン、惜しくもチャンピオンシップ(CS)ファイナルで敗れて準優勝となったBリーグ西地区の琉球ゴールデンキングス。初の連覇とはならず悔しい結果となったが、3大会連続で最終決戦の舞台に駒を進めた史上2チーム目のクラブとなった。
一方、今オフでは3シーズンに渡る隆盛期を支えた5人が退団。5シーズン主将を務めた田代直希と牧隼利は、生え抜き選手としてチームの成長と共にプロキャリアを積み重ねてきた。今村佳太は日本人エースとして大舞台で何度もチームを救い、アレン・ダーラムは初優勝を遂げた2022-23シーズンのCSでMVPに輝いた。
琉球は今、クラブ史の中でも大きな転換期の一つを迎えている。
チーム一筋で13シーズン目に入る岸本隆一は、共に優勝という栄光を手にしたメンバーとの別れをどのように受け止めているのか。そして、新たなチームメイトも迎え、2024-25シーズンにどんな気持ちで向かっていくのか。昨シーズンの振り返りも含め、インタビューした。
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“頭でっかち”になったファイナル「難しくしたのは自分たち」
5月28日、横浜アリーナ。広島ドラゴンフライズに50ー65で敗れ、ファイナル敗退が決まった第3戦の直後に行われた記者会見。この負けが来シーズン以降、どうチームの成長につながると思うか、と問うと、岸本はこう答えた。
「正直、今は実感がないです。儚いですね。感情が迷子になっているので、少し時間をかけて自分の中で整理し、来シーズンに向かっていけたらと思います」
沖縄アリーナで行った今回のインタビューは、それから1カ月以上が経過した7月10日に実施した。改めて準優勝の受け止めを聞くと、「どうですかね…」と少し間を置き、考えを巡らせてから口を開いた。
「前向きに過ごしてはいますが、消化できてないですね。負けを乗り越えて『じゃあ次』という感じではないです」
王者として迎えた2023-24シーズン、追われる立場となった琉球はもがき続けた。
他チームが徹底的に研究して向かってくる中、ジャック・クーリーら主力が負傷した状態で開幕を迎え、東アジアスーパーリーグ(EASL)を含めた過密日程の中で十分に練習を重ねられず、ヴィック・ローら新戦力とのフィットに苦心。天皇杯決勝で千葉ジェッツに大敗し、レギュラーシーズン最後の土壇場で名古屋ダイヤモンドドルフィンズにまくられて西地区7連覇も逃した。
それでも、岸本が「まわりから見たらクォーターファイナルで敗れる可能性もあると思われていただろうし、吹っ切れたのが良かった」と言うように、CSに入ってチーム力が格段に向上。アルバルク東京と千葉Jという優勝候補を連破し、上り調子でファイナルを迎えた。
しかし、先勝して臨んだ第2戦の後半からチームのリズムが崩れ、頂点には届かず。優勝できる感触はあった。だからこそ、ファイナルの結果に対してはやり切れない気持ちが残る。
「個人的には、(ファイナルでは)『正解を出さなきゃいけない』という感覚に近かったです。特に良くない時間帯は、ディフェンスをよりハードに、チームルールにのっとってやらないといけないとか、オフェンスはより確率が高く、リスクを避けるプレーを選ぶとか。でも自分が行けるんだったら行けばいいし、それぞれの強みを出せばいい。『確率良く、確率良く』とやっている内に時間がなくなって、タフショットになったりしてしまいました」
バスケットボールは相手がいる競技であり、自分たちの強みを強調するだけで勝てるものではない。事前のスカウティングによる対策や試合中のアジャストで、相手の強みを消す作業も求められる。ただ、目まぐるしく状況が変化するコート上のカオスの中で、このバランスを取ることは当然難しい。
それを念頭に、岸本は当時の自身のメンタル面を「頭でっかちになり過ぎた」と回想する。つまり、後者の「対策」部分に偏り過ぎていたということだ。試合内容は少し守りに入ってしまった印象もあったが、連覇のプレッシャーもあったのだろうか。岸本の認識はこうだ。
「僕は感じていないつもりではいたんですけど、まわりのチームメイトやスタッフが汗を流してる姿を見ると、自分も少なからず影響される部分があったのかなと思います。個人的には負けて初めて、ことの重大さに気づくかというか、そっちの感覚に近い。チーム全体として見ると(プレッシャーを感じてる部分は)あったのかなと思います」
連覇に挑戦できるチャンスは何度もあるわけではない。だから「難しくしたのは自分たちで、もったいない」と思う。ただ、プロキャリア12年の中で酸いも甘いも経験してきた34歳は、思い通りの結果にならない時もある事は十分に理解している。
「人生うまくいくことばかりじゃない。(ファンの)みんながイメージしてるキングスはほんの一部でしかなくて、選手それぞれが何かを抱えながらプレーしています。その中で前を向いてチャレンジしないといけないということは改めて感じさせられました。これも新しい壁、試練として捉えています」
消化不良の心を抱えながらも、前を向く。
沖縄、全国で広がる琉球ファン「共感できる部分が…」
タイトルを手にすることはできなかったが、3シーズン連続のファイナル進出は紛れもない偉業だ。
Bリーグの前身の一つであるbjリーグで4度の優勝を達成したが、Bリーグ開幕初年度は29勝31敗で負け越し。そこから8シーズンを経て、離島県に本拠地を置くクラブがここまでBリーグで存在感を高めることになるとは、地元沖縄出身の岸本も「全然想像できなかった」と言う。
昨シーズンは、沖縄アリーナのホーム平均来場者数はリーグトップとなり、アウェー戦でも常に多くのファンが声を枯らした。近年の好成績が人気を底上げしていることは間違いないが、岸本は「僕の主観」と前置きした上で、別の要因にも触れた。
「特に昨シーズンは浮き沈みが激しいとされるチームで、みんなが共感できるところが多かったのかなと思っています。(観ている人も)いろんな生き方があって、うまくいくことばかりじゃない。むしろうまくいかないことがほとんど、というのが人生だと思う。それでも前を向いて、結果を残そうとしたことに対して、少なからず観てる人にとって共感できる部分があったのかなと解釈しています」
プロスポーツ球団の人気は、何も成績だけに左右されるわけではない。琉球は本拠地が離島県なため、アウェー戦の度に飛行機移動を強いられ、コンディションを維持する上での不利性がある。特に昨シーズンはEASLでの試合で海外移動もあった。経営面においても都市部と違って地元に大資本の企業が多くはないため、様々な工夫が求められる。
岸本が「共感」という言葉で表現したように、クラブの“生き様”そのものが、観る人の心に何かを訴え掛ける力を持っているのかもしれない。
「寂しいですよね」退団した優勝メンバーへの想い
来季で所属13シーズン目を迎える岸本。現在の桶谷大HCを含め、これまで5人のヘッドコーチの下でプロキャリアを積んできた。「同じユニフォームは着ていますが、ヘッドコーチも変わる中で常に自分も変化を求められていますし、毎シーズン違うチームという感覚です」と話し、毎年新鮮な気持ちで開幕を迎えることは変わらないという。
ただ、冒頭で記したように、今オフは直近3シーズンの隆盛を共に築いた田代や今村、牧など多くの選手がチームを去った。
「気持ちだけで言えば、寂しいですよね」
感傷的な言葉を口にし、彼らに対する率直な想いを続けた。
「今までたくさんのチームメイトとプレーをさせてもらってきましたけど、僕の中では優勝を経験するというのは一つ特別なことです。一緒に優勝を経験したメンバーがチームを去るというのは、いつもとは違う気持ちになりますよね。理屈抜きに言えば、もっと長く一緒にプレーしたかったな、というのは正直思っています」
特に昨シーズンはBリーグ、EASL、天皇杯を合わせ、リーグで最も多い77試合を戦い、最も長い期間、試合を行ったチームとなった。タイトルを取ることは叶わなかったが、共に過ごした約8カ月間は濃密な時間だった。
「良い時も苦しい時も一緒に経験して、例年になく、みんなで過ごす時間が本当に多かったです。バスケ以外でも一緒にご飯を食べたりして。何かに爆笑することも多かったです。何に対してかは覚えてないですけど(笑)。印象深いシーズンでしたね」
Bリーグ初年度の2016-17シーズンが終わった後のオフも、伊佐勉HCを筆頭にアンソニー・マクヘンリーや山内盛久、喜多川修平など多くの主力が退団し、編成がガラっと変わったことがあった。似たような経験はしているが、こればかりは「慣れないですよね」とセンチメンタルな気持ちをのぞかせる。
ただ、胸中には寂しさだけではない想いも混在しているようだ。
「一つ区切りが付いて、そして、また一つ何かが新しく始まったような感覚もあります。みんなまだまだキャリアは続いていくし、始まりという要素はあっても、終わりじゃない。人生何があるか分からないですし、どういった巡り合わせでまた一緒に仕事をできるかも分からない。自分も含め、みんな道の途中です」
退団したメンバーと対戦することも「純粋に楽しみ」だと言う。
新戦力への期待感と地元選手としての自覚
2024-25シーズンに向けては、伊藤達哉、ケヴェ・アルマという新戦力が加わり、脇真大や植松義也など成長が期待される若手も多い。ダーラムが抜け、自身がチーム最年長となった。「僕が最年長って『申し訳ない』って思いますね」と冗談っぽく笑いながらも、「みんな好きにやってほしいです。もちろん協力できるところは僕も最大限やっていきます」と責任感を語る。
同じポイントガードの伊藤に対しては「めっちゃ上手いです。相手の嫌な部分を突くのに長けている選手。マッチアップして『嫌だな』と思う1人だったので、チームメイトになって助かりました」と高く評価する。
伊藤はスピードが速く、ハンドリングや3Pを武器とする自身とは異なる持ち味も持っているため、タイプの違いが強みになるとも感じる。「相手にとっては嫌だと思います。試合の中で変化を付けられるし、お互いにとっても自分たちの長所と短所を補い合える。相性がいいと思います」と続け、共にプレーすることに対してワクワク感を抱いているようだ。
一つの「区切り」を経て、13回目のシーズンへと歩みを進める岸本。
地元出身選手として掛けられる期待は年々大きくなり、重荷を背負っているようにも見える。しかし、当の本人は「好きな事を仕事にできているのは本当に幸せなこと。プレッシャーよりも、やりがいとか自分の責任と捉えてプレーしています」とポジティブな力に変換している。
「まずはチーム内で(プレータイムを)勝ち取るところから始まるので、自分も負けないように、みんなで切磋琢磨し、力を合わせ、また優勝を目指せたらいいかなと思います」
南国の島から、日本一を目指す“ミスターキングス”の旅は続く。
(長嶺 真輝)