2戦先勝方式のBリーグチャンピオンシップ(CS)セミファイナル第3戦が21日、沖縄アリーナで行われ、西地区2位の琉球ゴールデンキングスが東地区3位(ワイルドカード下位)の千葉ジェッツを83ー67で下した。対戦成績を2勝1敗とし、琉球の3シーズン連続となるファイナル進出が決定。クラブ初の2連覇に向け、大きく前進した。
国内二大タイトルのもう一つの大会である天皇杯と合わせると、直近の3シーズンで5大会連続でファイナルの舞台に駒を進め、“西の雄”として圧倒的な存在感を放つ琉球。ただ、チームの顔役の一人である今村佳太が「CSに出場している8チームの中で自分たちが一番苦しいレギュラーシーズンを送ってきたと思います」と度々口にしているように、今季は決して順風満帆ではない。
ヴィック・ローの加入やアレックス・カークの帰化など武器が増えた一方で、チームとして強調する部分の認識が揃わなかったり、全体としての強度が上がらなかったりして、浮き沈みの激しいシーズンを送ってきた。東アジアスーパーリーグ(EASL)への参戦によるタフなスケジュールや負傷者が相次いだことも、チームの成熟度や遂行力を高める上で障害となったのだろう。
しかし千葉Jとの第3戦後、岸本隆一がコート中央のマイクで「この3試合で、どのチームよりも成長したと実感しています」と話した通り、第2戦以降はチームの遂行力が今季を通して最も高い状態にあった。桶谷大HCの会見コメントから「成長」の要因を探る。
第2戦から高い遂行力を維持 戦術ハマる
最終第3戦は、激しいディフェンスやインサイドを強調して序盤から流れをつかみ、81ー63で快勝した第2戦とほぼ同じような試合展開となった。
ディフェンスでは千葉J最大の得点源である富樫勇樹に対し、小野寺祥太やビッグマンが連係してレイアップ以外のシュートを簡単に打たせないように激しいプレッシャーを掛け続ける。ノンシューター扱いする選手を明確にしながら、クリストファー・スミスやゼイビア・クックスらに対しては中を固めて確率の高いシュートを防ぎ、相手のリズムを崩した。
オフェンスではアレン・ダーラムとジャック・クーリーを中心にドライブやポストアップ、オフェンスリバウンドからのセカンドチャンスで効率良く加点。徐々に千葉Jのディフェンスが収縮し始めると、今度はキックアウトや個での打開で牧隼利、松脇圭志らが要所で3Pを沈め、優位に試合を進めた。サイズの小さい富樫のところを根気強く攻め、少しずつ富樫の足も削っていった。
結果、試合開始直後以外では一度も逆転されることなく勝ち切った。3月の天皇杯決勝と同様にスピードのミスマッチからのドライブや高確率の3Pで得点され、オフェンスではポイントガードの少なさを突かれてブリッツでリズムを狂わされた第1戦から一転、第2戦と第3戦では攻守においてそれらに対応する戦術が見事にハマった形だ。
桶谷HCは選手たちの遂行力の高さを評価する。
「本当に強度の高いディフェンスができたことと、オフェンスでインサイドを突いたり、富樫選手のところをアタックしたり、前半は特に選手たちがプランを遂行してくれました。第3Qは3Pを3本を決められて24点を取られ、『これはやらせたくないな』というムードにしてしまったのですが、第4Qでもう一回自分たちがやるべきことができました。リバウンドもしっかり制したことで、この結果になったのかなと思います」
ボールムーブメントを生む「最大の武器」を強調
4月下旬のレギュラーシーズン最終盤、西地区優勝争いを演じていて名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの大一番で屈辱の2連敗を喫した後、桶谷HCは今シーズンのチームについて以下のように評していた。
「相手の土俵に入ってバスケットをした時に脆さがある。だからこそ、自分たちの土俵でバスケットをできるかということが重要だと思っています。劣勢になった時の判断の悪さはこのチームの一番の欠点だと思うので、どれだけメンタルゲームで余裕を持ってプレーし続けられるかが大事になります」
このセミファイナルに置き換えると、第1戦は千葉Jの土俵で戦い、第2戦以降は最大の強みであるインサイドをスタートから強調し、自分たちの土俵に引きづり込んだという印象だ。「弱みを隠す」というよりも「強みを強調」するという方向にシフトしたように見えた。指揮官にそのあたりの認識を問うと、「どちらもですね」と答え、こう続けた。
「天皇杯決勝や今回の1戦目は自分たちの弱いところを隠し切れず、そこを突かれていました。もちろんボールムーブメントは僕らの強みではあるのですが、それだけではCSは勝てないので、もっと強みを強調して、そこにボール集める。それがダーラムやジャックのインサイドです。あと千葉Jは足が動く選手が多いので、攻略が難しい。だからハードショーに来られるようなシチュエーションをあえて作らないオフェンスプランで戦いました。富樫選手にディフェンスをさせ続けるという部分も含め、選手たちが強調したいところを遂行してくれました」
冒頭で記したように、武器が増えた一方で強調する部分が明確化できず、ぎくしゃくしたオフェンスで流れが停滞する試合も多かった今シーズン。結果、相手ディフェンスを崩せずに得点力の高いヴィック・ローや今村佳太がスクリーンを使って一人でシュートまで行ったり、外でのボール回しのみで3Pを打ったりする場面も散見されていた。
しかし、このシリーズでは最大の武器であるインサイドの強みを優先的に強調するという“原点”に立ち返ったことで、相手ディフェンスが収縮し、個人技やボールムーブメントもより生きてくるという好循環が生まれたのだ。
3戦とも12人全員を起用 “Xファクター”を生む要因に
CSに入ってから選手たちの共通認識が高まり、チーム力が向上していることについて、第3戦で3P3本を含む11得点の活躍を見せた牧隼利は「ここまで来たら気持ちの部分が大きくて、CSを通して団結する力が増してきていると感じています」と手応えを語る。CSは敗退すればその時点でシーズンが終わるという危機感もあるため、メンタル面が影響していることは間違いない。
さらに、桶谷HCの選手の起用法にも団結力を高める要因がある。一つ一つのプレーの重要度が増すCSにおいては、主力のみでローテーションし、数人は出場時間が無いというチームも多い。しかし、このシリーズにおいて、桶谷氏は3試合ともベンチに入った12人全員を起用した。
もちろん今村やローのコンディションが万全ではなかったこともベンチスタートのメンバーがより出場時間を得ることにつながったとは思うが、それでも渡邉飛勇や荒川颯、田代直希は10分未満の出場でもディフェンスやリバウンド、ゲームを落ち着かせることなど、短い時間の中でそれぞれの役割をしっかりとこなしていた印象だ。
多くの選手を起用する理由を問われた桶谷氏は「プレーの質」の維持を理由に挙げる。
「出場時間が30分を超えてくるとパフォーマンスが落ちると思っています。もちろんファウルトラブルなどで30分以上出ないといけなくなる選手もいますが、マッチアップを見ながら『いま休める』というタイミングではなるべく下げるようにしています。やっぱり勝負どころや流れが悪い時にコートに置きたい選手はいるので」
実際、この3試合で出場時間が30分を超えたのは第1戦のローと第2戦の岸本のみ。最終戦までもつれれば3〜4日で3試合をこなし、それが毎週続くCSにおいて、プレーの質を維持するために出場時間をなるべくシェアできることに越したことはない。また、この起用法は普段から「選手が成長する余白があるチーム」を掲げる桶谷氏の信念に基づいたものでもある。
「やっぱり試合に出た方がみんな成長するんですよね。僕らが戦術とかスキルを教えたりするよりも、試合を経験をさせることが一番成長につながる。試合での一つのミスの経験から『なにくそ」と思って練習に取り組めますし。流れがいい時にしか使うことができない選手もいますが、自分の中では一つの信念を持ってやっているので、使える時には使うようにしています」
全員がコートで一緒に戦っている実感を持てているからこそ「チームとして一体感があるし、考えていることがセイムページ(同じ方向を向いている状態)です」とも言う。各選手が迷いなくプレーできているため、第2戦での小野寺や第3戦での牧の連続3Pなど、予想外の活躍をする“Xファクター”も試合ごとに生まれてる。指揮官が続ける。
「アルバルク東京とのクォーターファイナルではXファクターが出てくるのがなかなか難しい状況だったのですが、千葉J戦では小野寺と牧が出てきて、松脇も3Pを決められました。チームにとってはかなりプラスになるし、雰囲気が良くなりました。やっと役者が揃ってきた。ファイナルで、また誰かがヒーローになる要素が出てきたと思います」
昨シーズンもCSでセカンドユニットが躍動し、選手層の厚さが初優勝を飾る要因の一つになったが、今季もシーズン最終盤のこの局面においてその傾向が見て取れる。上昇気流に乗り、25日に横浜アリーナで開幕する広島ドラゴンフライズとの頂上決戦へ。クラブ初の2連覇に向け、陣容は整った。
(長嶺 真輝)