220cmの”怪獣”降臨 カイ・ソットが広島ドラゴンフライズ最大の弱点を補う存在に
広島ドラゴンフライズでデビューしたカイ・ソット©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 身長220cmの”怪獣”がBリーグのコートに降り立った。

 8日、沖縄アリーナ。アウェーチームとして乗り込んだ西地区3位の広島ドラゴンフライズで、来シーズン以降にNBA入りも期待されるフィリピンの「至宝」、アジア特別枠のカイ・ソットがBリーグデビューを果たした。弱冠20歳ながらフィリピン代表で活躍し、2月までオーストラリアリーグ(NBL)でプレーした後に広島に合流。リバウンドやブロックはもちろんの事、広いシュートレンジや俊敏な動きなど万能性も備える。

 試合は西地区で激しい上位争いを続ける地区2位の琉球ゴールデンキングスに78ー86で敗れたが、広島はソットを含めたビッグラインナップを武器の一つとして活用。チーム最大の「弱点」であったリバウンド数でリーグトップの琉球を上回り、早速大型補強の効果が数字になって表れた形だ。

220㎝の長身が武器に©Basketball News 2for1

18分の出場で10得点3ブロック ダンクやミドルも

 デビュー戦からスターターに名を連ねたソット。早速ドウェイン・エバンスケリー・ブラックシアー・ジュニアと共に「3ビッグ」の一角を担う。琉球のゴール下を支えるジャック・クーリーやアレン・ダーラムらよりも頭一つ抜けた高さは、コートに立っているだけ圧倒的な存在感を放っていた。

 試合開始直後にフィジカルの強いクーリーにゴール下で1対1を仕掛けられ、すぐに一つ目のファウルを吹かれるが、直後のオフェンスで非凡な能力の一端を見せつける。それは高さを生かしたリバウンドやゴール下のシュートではなく、「走る」ことだった。寺嶋良のスティールに即座に反応し、すかさずリムへダッシュ。パスを受け、イージーなレイアップでBリーグ初得点を挙げた。

 その後も右45度から柔らかいシュートタッチでミドルシュートを決め、続くオフェンスでは豪快なボースハンドダンクを披露。ディフェンスではアレン・ダーラムの力強いドライブからのレイアップをはるか上から叩き落とすなど攻守で持ち味を発揮した。

 最終スタッツは18分55秒の出場で10得点、3ブロック、2リバウンド、1スティールとなったが、数字以上のインパクトを試合に与えたことは間違いない。ソットがゴール下に構えている時間帯、ドライブした琉球の選手がシュートまでいけずに苦しい大勢でのキックアウトを強いられる場面は何度も見られた。

広島のインサイドで存在感を見せつけたソット©Basketball News 2for1

リバウンド力の向上に寄与 HC「自信になる」

 さらにソット効果が顕著だったのは、今季好調を続ける広島にとって最大のウィークポイントだったリバウンドだ。この試合を終えた時点での1試合平均のリバウンド数は、琉球が42.3本でリーグトップなのに対し、広島は34.9本で21位と低迷する。広島はビッグマンも含めて全員でローテーションしながら組織的に守る激しいディフェンスを持ち味としているため、プレッシャーをかけてシュートを落とさせた後にゴール下からビッグマンが遠ざかっているシチュエーションも多く、その際の高さに課題があった。

 しかし、この試合は違った。カイソットは自身の本数こそそこまで多くはないが、圧倒的な高さを誇る選手が一人いることで単純に高さでの不安が減少。相手がソットを警戒するため、他の選手もリバウンドに飛び込みやすくなった。結果、個人の平均リバウンドランキングトップのクーリーをファウルトラブルに追い込めたこともあり、リバウンド数で琉球を36対35で上回った。

 試合後、カイル・ミリングHCは心強い新戦力について「初戦にしてはかなり良かったと思います。いいリズムでプレーして、プロックもスコアもしてくれました。これからどんどんチームに慣れ、良くなっていくと思います」と高く評価。リバウンド力が向上したことについても「リーグ屈指のリバウンドチームに対し、本数で勝てたことは自信になります」と手応えを語った。

 一方、ソットがまだそこまで経験豊富な選手ではないことを念頭に「彼はまだ若いので、あまりプレッシャーをかけ過ぎることはしたくないです。私たちにはキーになる選手もたくさんいます。彼の成長をしっかり応援したいです」と語り、焦らずにチームへフィットさせていく考えを示した。

広島カイル・ミリングHC(手前)©Basketball News 2for1

ソット「能力の高いチームにフィットしていきたい」

 2月にチームに合流したばかりのため、まだチームとの連係不足は否めない。自身も「全体的に自分のベストゲームではなかったです。自分はショットミスがあったし、チームとしてもミスが多かった。自分にとって初めての試合で、ビッグラインナップについてもチームメートとまだお互いに探っている状況です」と淡々と現状を分析する。

 その上で「Bリーグで本当にいい経験、挑戦ができています。チームとしてまだ21試合残っています。広島は一人一人のポテンシャルが高いチームなので、しっかりフィットしていきたいです」と今後を展望した。

 この日は同じくフィリピンのホープとして期待される琉球のカール・タマヨとの直接対決も日本、フィリピンで多くの注目を集めた。残念ながらタマヨはプレータイムを得られなかったが、2人は高校の頃からライバルとして対戦したり、代表チームで共にプレーしたりした深い仲だ。

 「タマヨはハイスクールの頃から知っている仲なので、日本でお互いプロとしてプレーするのは本当に嬉しいです。試合前には『元気か?』と話をしました」と言うソット。レギュラーシーズンの最後の連戦では、次はホームで再び琉球と対戦する。今度こそBリーグのコートで相見えることを想定し、「シーズンの最後では琉球に勝てると思います。自分が入ったことでどんどんチームが良くなると感じるし、前を向いて進めばかなり強いチームになれる」と強い自信を見せた。

©Basketball News 2for1

西上位と残り9試合 ”昇竜”の快進撃なるか

 広島は現在28勝11敗で西地区3位につける。ワイルドカードでのチャンピオンシップ(CS)進出だけでなく、自動的にCS進出が決まる地区2位以上も狙える位置だ。しかし、残り21試合の対戦カードでは地区1位の島根と4試合、2位琉球と2試合、4位名古屋Dと3試合を残しており、険しい道のりとなることは間違いない。

 ただ、ソットの加入について琉球の田代直希主将が「(ソットは)でっけぇです。見た目は細く見えるかもしれませんが、身長があれだけ高いから体を当てると重いんです。それでいて走れて、シュートも柔らかい。彼がいることで広島はエバンスを3番で使うオンザコートスリーができる。それが成熟したら、より対戦したくない相手になりますね」と警戒感を示す通り、この大型補強はライバルチームにとって脅威以外の何物でもないだろう。

 厚みを増したインサイド陣に加え、辻直人や寺嶋、アイザイア・マーフィーら得点力のあるペリメーター陣も健在の広島。終盤戦に向けたチームケミストリーの成熟度合いによっては、混戦模様の西地区を制し、年間チャンピオンへと一気に駆け上がる真の”昇竜”と化す可能性は十分にある。

(長嶺 真輝)

終盤戦に向けて視界良好の広島ドラゴンフライズ©Basketball News 2for1

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