ニック・ケイの”2つのファウル”が象徴する島根スサノオマジックの状況判断力  アウェーで琉球に貴重な1点差勝利
4Q残り4.2秒、琉球のジャック・クーリー(左)にファウルをする島根スサノオマジックのニック・ケイ©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 西地区2位の島根スサノオマジックが1月11日、アウェーで貴重な一勝を挙げた。相手は1ゲーム差で島根を追う西3位の琉球ゴールデンキングス。地区の上位同士による直接対決だけあって注目度は極めて高く、平日にも関わらず7,205人もの大観衆が沖縄アリーナに詰め掛けた。

 結果は81-80。優勝候補に挙げられる両チームの対戦だけあって、最後の最後まで勝負の行方が分からないシーソーゲームとなった。大接戦の中で光ったのは、40分間フル出場したニック・ ケイが最終盤で記録した2つのファウルに象徴される島根の状況判断力の高さだった。

フリースローを”与える”場面と”与えない”場面

 79-77で迎えた第4Q残り1分1秒、緊迫した場面でウィリアムス・ニカが今季成功率60%台で決して得意とは言えないフリースローを2本確実に沈めてリードを4点に広げる。琉球も負けじと今村佳太が果敢なドライブから2点を返し、81-79となった残り37.2秒で島根が最後のタイムアウトを取った。

 試合再開。安藤誓哉が右コーナーから放ったスリーポイントはリングに弾かれ、残り13 秒で琉球がリバウンドを奪う。琉球はアレン・ダーラムが左のローポストでニック・ケイを背負った状態でボールを受け、ドリブルしながら背中で押し込もうとするが、シュートモーションに入る前にすかさずケイがファウルで試合を止めた。この時点でチームファウルは4つ。「フリースローを与えない」という明確な意思が伺えるファウルだった。

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 残り5.3秒、琉球はエンドラインから再スタート。ボールを受けた岸本隆一がドライブから ジャック・クーリーにアシストし、リングへ突進する。ここで再びケイが、簡単にシュートを決められないようにクーリーの上腕部を抑えるようにしてファウル。この試合終了時点でシュート成功率が61.3%に達するクーリーに対し、今度は「フリースローを打たせた方が2点を取られる確率が低い」という判断をしたに違いない。残り3.2秒、勝負の命運を懸けた緊張感MAXの状況下でのフリースローを強いられたクーリーは1本目を沈めたものの、同点の懸かる2本目を外して勝敗が決した。

 怪我で離脱したリード・トラビスに加えて、昨年12月に補強したエペ・ウドゥも欠場が続く中、 ケイ、ニカ、ペリン・ビュフォードのビッグマンが琉球の強烈なインサイド陣に対し、試合を通してファウルをコントロールしながらしっかりと渡り合った島根。会見で、試合前にインサイド陣に何か伝えたことはあるか、と問われたポール・ヘナレHCは「この1年半で8~9回は琉球と対戦をしています。私が何か言ったわけではなく、ニックやニカ、ペリンの中心選手たちは勝つためにどうしないといけないのかを理解していたと思っています」と各選手の状況判断を称えた。

9連勝を支える「スペーシング」と「明確な役割」

 これで島根は破竹の9連勝。前半だけで5本のスリーを成功させるなどして25得点を挙げた安藤は「去年からの積み重ねもある中で、チームの共通認識は高まってきています。クロスゲームをしっかり勝ち切れていることが、連勝につながっていると思います」と好感触を語る。

 確かに、島根は昨年12月11日の千葉ジェッツ戦でも最終盤にビュフォードがドライブからタフショットを決めて81-79で劇的な勝利を飾るなど終盤での勝負強さを発揮している。なぜ接戦に強いのか。安藤が解説する。

 「僕らの強みはスペーシングを取ることなので、今日の試合もそのおかげでピック・アンド・ロールだったりが有効に効いたと思います。クロスゲームになった時にフィニッシュするプレーヤーも明確ですし、その場面で全員がやるべき事を十分に理解しています。準備ができているということが、クロスゲームを勝つ確率を大幅に上げてるんじゃないかなと思います」

25得点と気を吐いた安藤誓哉©Basketball News 2for1

 現在、平均21.5点でリーグの得点ランキング1位のビュフォードと、平均15.7点でリーグの日本人得点ランキング2位(帰化選手除く)の安藤が攻撃の軸になっている島根は各選手の役割が明確だ。この試合も81点のうち、この二枚看板で54点を奪ったが、琉球が2人へのプレッシャーを強めている時間帯は他の選手へのキックアウトからのコーナースリーやインサイドでの合わせも随所で見せた。安藤が言う「やるべき事」をそれぞれが体現していた。

 この試合、29得点、11リバウンド、5アシストと大活躍したビュフォードに対する評価を聞かれたヘナレHCが「彼は多岐に渡ってチームに貢献していますが、他の選手も要所要所でステップ アップしてくれています。ニック選手、安藤選手、ニカ選手らも活躍しています。ビュフォード選手に頼り過ぎず、各選手が自分の仕事をしてくれています」と語るように、チーム力の向上と共に強さが安定してきている印象だ。

 昨季のCSセミファイナルで敗れた西の最大のライバルである琉球に対し、今季沖縄アリーナで 組まれていたレギュラーシーズンの3試合を2勝1敗と勝ち越した島根。琉球に関しては「他のチームに比べて意識する部分はあります」と断言する安藤は「僕たちにとっては大きな1勝だと思うので、この1勝をどう次に繋げられるかが大事だと思います」と気を引き締める。好調を続ける島根が、さらに勢いを増していきそうだ。

(長嶺 真輝)

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