「more aggressive!!」「自信持ってやれよ!」ー。
29日午後、沖縄アリーナ。 Bリーグ1部・ 中地区最下位に沈む富山グラウジーズの高岡大輔HCが、昨シーズン王者の琉球ゴールデンキングスを相手にアウェーで戦う選手たちを大声で鼓舞していた。その言葉の内容は、プレーに激しさが足りないチームの現状を端的に表していた。
この日は試合開始からエナジーが不足し、強度の高いディフェンスを仕掛けた琉球の圧に押されて連続15得点のランを許す厳しいスタート。後半に若干持ち直す時間帯があったが、ハッスルが長続きせずに大きく流れを引き寄せるまでには至らず、59ー85で大敗した。
泥沼の開幕9連敗となり、未だ白星が無いチームはリーグ全体で東地区の茨城ロボッツと富山のみ。昨シーズンは最終盤までもつれた滋賀レイクス、新潟アルビレックスBBとの残留争いを制してなんとかB1に残留したものの、新シーズン開幕から1カ月弱で早くも正念場を迎えている。
高岡大輔HC「戦う意識が足りないことが問題」
「すごく受け身になってしまい、残念な出足でした。チャンピオンチームに挑むのはそんなに甘いものではないので、受け身になればこういう展開になる。先制パンチを食らい、うまくいかないことばかりにフォーカスしてしまいました」
試合後の会見で高岡HCが語ったように、琉球に序盤からプレーの強度で大きく上回られたことで攻守ともにアグレッシブさや連係への意識が薄れてしまった。
ディフェンスでは指揮官が度々「前から当たれ!」と指示を出してオールコートの守備を仕掛けるが、激しさを持続できず、琉球の持ち味であるボールムーブメントで突破されて簡単に得点を許す。いきなり二桁点差を付けられた焦りからか、オフェンスではほぼ1対1で打破しようとすることも多く、相手ディフェンスを崩せないままタフショットを打ってシュートミスをする場面が散見された。
2シーズンぶりにチームに復帰した宇都直輝が素早いトランジションから単独で速攻を決めたり、チーム最多の18得点を決めたエージェー・エドゥがゴール下で強さを見せたりもしたが、それも単発。チームのリバウンド数で31本対46本と大差を付けられたほか、ターンオーバー数も琉球を八つ上回る「19」に上った。
試合中、チームで最も声を出していたのは高岡HCだ。冒頭の言葉もその一部だが、身振り手振りで熱量たっぷりに指示を出す狙いを聞いてみた。
「どう相手を止めようかとか、どう攻めようとかそういうところではなく、スタートラインに立つ時点で『戦う意識』が足りないことが問題でした。ハーフタイムに話をして後半にエナジーを持ったバスケをできましたが、うちは大人しめな選手が多いというか、表立ってハッスルをするよりクレバーにプレーする選手が多いので、普段から何とかエナジーを届けられたらと思っています」
熱い指揮官に引っ張られ、選手たちが自発的に互いを鼓舞する空気感をつくりたいところだ。
イヴァン・ブバ、マイルズ・ヘソンが離脱 得点、失点ともにリーグ最下位
チームの苦しい状況に拍車を掛けているのが、主力の相次ぐ離脱だ。
開幕から3試合を終えた時点で平均16.3得点を記録していたスコアラーのマイルズ・ヘソンが負傷。さらに6試合で19.2得点、11.2リバウンドのスタッツを残していたセンターのイヴァン・ブバも左大腿内転筋肉離れと左外閉鎖筋肉離れで27日にインジュアリーリストに登録された。
外国籍選手への依存度が高いBリーグにおいて極めて厳しい状況に置かれており、30日現在のチームの平均得点(69.8点)と平均失点(87.4点)はいずれもリーグで最下位に位置している。
一方、琉球との2連戦では新戦力が姿を見せた。27日に契約を結んだばかりの206cmのPFアンジェロ・チョルである。21分51秒出場した1戦目は8得点、6リバウンド、28分3秒出場した2戦目は6得点、6リバウンドと数字自体は際立ったものではないが、身体能力が高く、攻守で体を張れる印象だった。
高岡HCも「チョルには合流から1日しか練習していない状態で出場してもらいましたが、エージェー・エドゥの助けになったと思います。チームとして彼のエナジーは助けになりました」と評価しており、今後さらにチームにフィットしていくことが期待される。
攻撃のテーマは「ペイントタッチからのキックアウト」
今節から、昨シーズン特別指定選手ながら卓越したリーダーシップでチームにエナジーを与えたPGの喜志永修斗も開幕前に負った上顎骨骨折から復帰した。まだ対人練習が不十分で「バスケ勘が戻っていない」と言い、2戦とも10分以下の出場にとどまったが、持ち味である試合中に「喋り続けること」は健在。まだ23歳と若手ながら、コートに入っている時間は常に周囲へ指示を出していた。
「後半のファイトをずっとやらないと勝てないということを改めて認識した試合だったと思います」と琉球戦を振り返った喜志永。コート内外の視点から感じたチームの課題を聞くと、こう答えた。
「今季は能力の高い外国籍選手がいてピック&ロールにおけるオプションが増えましたが、最初の何試合かはオフェンスがインサイドだけになってしまっていたのが課題でした。ブバが怪我をした後、現状では3Pの本数を増やそうとしていますが、そこまで増えていない。いいペイントタッチをしてからのキックアウトがチームにとっての今のテーマになっています」
その指摘通り、チーム全体の3P試投数はリーグで最も少ない20.7本にとどまる。琉球との第2戦は18本で平均をさらに下回った。また、それ以上に問題なのが、喜志永が言うようにペイントタッチが少なく相手ディフェンスのズレを作れていないため、フリーで高確率の3Pを打てていないことである。この試合の3P成功数は4本で、成功率は22.2%。強力な外国籍選手の離脱が相次いでいる今だからこそ、チームオフェンスの質を高めたいところだ。
昨シーズン、B2降格の危機を乗り越えたメンバーの一人である喜志永は今後への決意も力強く語った。
「昨シーズンは最後の最後で残留を決めましたが、あれだけの苦しい思いはもう味わいたくない。ただ、それを経験したからこそ今B1で戦えて、今日の試合の後半のようなファイトができる試合もあります。それが勝ちに結び付いてないことで苦しい状況になっていますが、ファイトを続ければ勝てるという感触を早くチームとしてつかむため、自分が貢献できることをやっていきたいと思います」
次節は中地区7位の信州ブレイブウォリアーズと同地区下位の直接対決となるため、より負けられない試合となる。一人一人が激しくプレーし、チームで戦う意識の向上が求められる富山。一刻も早くファンに白星を届け、浮上のきっかけをつかみたい。
(長嶺 真輝)