試合最終盤の残り59.9秒。地元沖縄出身の岸本隆一(琉球ゴールデンキングス)が超ロングスリーを沈め、差は2点。この日最高潮の盛り上がりの中、沖縄アリーナに“あの曲”が流れてきた。映画「SLAM DUNK」の主題歌、10-FEETの「第ゼロ感」である。
低音の効いた疾走感のある前奏に乗せ、自然と手拍子が湧き、「ウオーオオオーオー」というお馴染みの合いの手がアリーナ内に響いた。その光景は、昨夏に同じ沖縄アリーナで開かれたワールドカップで、男子日本代表が48年ぶりに自力で五輪出場を決めた瞬間をファンに思い起こさせるには十分なものだった。
試合は、14日に行われたBリーグオールスター。観客数は7,357人に上り、茨城県のアダストリアみとアリーナで行われた昨シーズンの3,146人の2倍超に上り、W杯の“熱気”を引き継いだ日本バスケの盛り上がりを可視化したような催しとなった。
沖縄アリーナでの開催は当初2021年に予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により延期された。それにより、日本全土を熱狂の渦に巻き込んだW杯の4カ月後に同じ会場でオールスターが開かれたことは、さらなる盛り上がりをつくりたい日本バスケにとって間違いなく幸運だった。
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岸本隆一がMVP初受賞 辻直人演出の“群がりブロック”もハイライトに
試合は「B.WHITE」が「B.BLACK」に128ー123で勝利し、見どころの多い内容となった。
まずはなんと言っても地元の期待を一心に背負った岸本の活躍である。第3Qまでは7得点にとどまっていたが、第4Qになるとボールが集まり、このクォーターだけで3P5本、17得点と爆発。試合を通じてチームトップの24得点を挙げた。
試合後にはBLACKの岸本、ジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)、WHITEの河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)、ペリン・ビュフォード(島根スサノオマジック)がMVPにノミネートされ、SNS投票で85%という圧倒的な支持を得た岸本がMVPに輝いた。
コート中央でインタビューを受けた岸本は「ボールを分け合いたかったけど、誰も目を合わせてくれなくて(笑)。個人的にすごく楽しい時間になりました」とにっこり。第4Qに入ったあたりから受賞も「あるな」と思い始めていたといい、投票してくれたファンに向けて「本当にありがとうございます」と感謝した。
「面白かった」という意味での最大のハイライトは、WHITEの辻直人(群馬クレインサンダーズ)が演出した“群がりブロック”だろう。
飛び出したのは第3Qの残り4分弱。右45度のスリーポイントライン外でボールを持った辻がシュートフェイクすると、BLACKの藤井祐眞(川崎ブレイブサンダース)を皮切りに篠山竜青(同)、今村佳太(琉球ゴールデンキングス)、比江島慎(宇都宮ブレックス)、西田優大(シーホース三河)が次々とブロックに飛んだ。辻は途中からフェイクすらせず、ショーの調教師のように両手を順番に上げて飛ぶ選手を宙にいざない、会場から爆笑を誘った。後から何度見返しても笑いが出る“集団芸”は見事で、FIBAの公式SNSでも取り上げられた。
試合後、辻は「ブラックチームと僕の一体感は最高でした」とご満悦。自身は入場で篠山、藤井、山内盛久(三遠ネオフェニックス)と共に沖縄の伝統芸能である獅子舞やエイサーの演出で登場した他、試合では持ち味の3Pを5分の4の確率で決め、「点数は250点。盛り上げることもできたし、シュートも決められた。(会場を)一番腹抱えて笑わせた。やりたいことが全部できました」と振り返った。
代表“W杯組”が再集結 富樫勇樹「ホテルも同じで楽しめた」
“W杯組”の日本代表メンバーが沖縄アリーナに再集結したことも、多くの集客に繋がったことは間違いない。BLACKでは比江島、ホーキンソン、西田、吉井裕鷹(アルバルク東京)、WHITEでは富樫勇樹(千葉ジェッツ)、河村、馬場雄大(長崎ヴェルカ)がW杯組として名を連ねた。
河村のパスからの馬場のアリウープダンクや、河村と富樫の“ダブルユウキ”による岸本へのダブルチーム、ホーキンソンの3Pなど、それぞれの持ち味を生かしたプレーが何度も会場を沸かせた。
「沖縄が思い出の地になってきたのでは?」という質問に、馬場は「なってきましたね。今回オールスターで来た時も全然久しぶりな感じがしなかった。それはW杯で過ごした時間がすごい濃いものだったことを表しています。その意味で、沖縄が近い存在になってきました」と笑顔で語った。
W杯で一躍有名になった、比江島が3Pを決めた時の“マコポーズ”も、本人以外にもホーキンソンや藤井、齋藤拓実(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)らが真似し、度々飛び出した。中でも本家の評価が高かったのが、3Pを決めた後にコート上で比江島と向き合ってポーズを決め合った藤井だ。
「藤井選手が先陣を切ってやってくれたし、(自分)がやった時もしっかり応えてくれた。まあ、藤井選手が一番僕に近い感じでやってくれたと思います(笑)」と比江島。このセレブレーションによる盛り上がりも、W杯効果の一つと言っていいだろう。
今回、選手たちが止まったホテルもW杯の時と同じ場所だったため、富樫は「久しぶりに代表メンバーと合流して、ホテルもW杯の時と一緒だったので、(W杯の時に)お世話になったレストランに顔を出して食事をしたりしました。そういう時間も含めて楽しむことができました」と穏やかな表情で語った。
藤井祐眞「もう少し締まりのある…」 依然“過密日程”の課題も
これまでの中でも最大級の盛り上がりを見せたオールスターとなったが、毎年話題に上がるエンターテインメントと真剣さのバランスはどうだったか。
「途中離された時間帯はありましたけど、オールスターとはいえ『勝とう』という話はしていたので、ちょっとディフェンスの強度を、上げてトランジションを速くして、みんなが個性を発揮したと思います」と評価したのは富樫。一方、藤井は「今年は手を抜き過ぎているシーンが多かったので、また出られたらディフェンスをしっかりして、最後の真剣勝負のような時間帯をもうちょっと長めでいきたいなと思います。締まりのあるオールスターがいいなと個人的に思っています」と話した。
この辺りのバランスには、もちろん正解はない。ただ、ゆったりやり過ぎても観客を40分間楽しませることは難しいし、中途半端に強度を上げ過ぎても怪我のリスクが高まる。少なくとも、毎年コート上の選手たちがコミュニケーションを取りながら同じような認識でプレーするのが、最適な形を表現する上では大切なことになるだろう。
一方で、オールスターの日程は選手たちにとって依然として厳しいものとなった。今回は12〜14日の開催で、初めて従来より1日長い3日間の日程に。開幕2日前の10日には、チームによっては東アジアスーパーリーグ(EASL)と天皇杯準々決勝の試合があり、閉幕から3日後には各地でリーグ戦が組まれている。
過密日程での開催に対し、関係者から怪我のリスクを心配する声は毎年聞かれる。参加選手は各チームの主力級ばかりで、怪我やコンディション不良を起こせばリーグ全体の人気にとってもマイナス要素となるため、改善の余地はあるだろう。リーグ、チーム、選手にとってより良い形になることを願いたい。
(長嶺 真輝)